矢野「いよいよ6人タッグフェスも佳境。舞台裏では何かひと悶着あったようですね」
谷山「このまま何事もなくトーナメントが終わるとは思えないな」
矢野「さぁ、それはさておきスペシャルワンマッチ・アリスゲームの開催です!
   12個のターンバックルに隠された3つのローザミスティカの内、2つを先取したチームが勝ち。
   ピンフォール、ギブアップでは試合の勝敗は決まりませんが、選手は退場となります!」
谷山「ローザミスティカを探すか、それとも相手の戦力を削るのか戦略も必要、と」
矢野「まずは青コーナーよりAIの入場です!」

『聖少女領域』に乗ってドールの衣装を着た沢城みゆき、森永理科、志村由美が入場。
セコンドには沢城の正パートナーである真田アサミの姿も見える。

矢野「VOWの未来を担うと評される若き実力者“真紅”沢城みゆきを先頭に入場です。
   リーグ戦VORベスト4の“蒼星石”森永理科もAIには欠かせない存在となりました!」
谷山「“金糸雀”志村由美もへっぽこに見えて、実はヤング黒うさ杯の準優勝者だからな!」

志村「だ、誰がへっぽこなのかしら〜!」
沢城「少し落ち着いたら? 本当の強者はリングで反論するものよ」
森永(この子、相変わらず老けてるなぁ…)

場内が暗転する。再び鳴り響く『聖少女領域』だが、聴く者を不快にさせる不協和音リミックス。
静まり返る場内に姿を現したのは、田中理恵、後藤沙緒里、野川さくらの3人。

谷山「………」
矢野「………」
谷山「お、おい、何をボーっとしてんだ!」
矢野「す、すいません! 赤コーナーからは黒き薔薇乙女たちが登場です。
   近づく者すべてを打ち砕くジャンクメーカー“水銀燈”田中理恵!
   第一回ヤング黒うさ杯優勝者にして、次代の新星“薔薇水晶”後藤沙緒里!」
谷山「アイドルレスラーだった“雛苺”野川さくらも今や田中に負けず劣らずのヒールだな」

田中「お嬢さん、私のタッグパートナーに恥じない試合をして頂戴ね?」
後藤「……沙緒里、お嬢さんじゃない」
田中「あら、怖い怖ぁ〜い。ねぇ、さくにゃん?」
野川「久しぶりのタッグ結成だけど、貴女のこと、信用したわけじゃないから」
田中「L/R入りを断ったのが、そんなにご立腹ってワケ? まぁいいわ…」

矢野「非常に個性の強い両チーム。さぁ試合開始のゴングです!」

【アリスゲーム時間無制限一本勝負】
沢城みゆき・森永理科・志村由美 vs 田中理恵・野川さくら・後藤紗緒里


志村と後藤で試合開始。ヤング黒うさ杯決勝の再現となるカードだ。
距離を取りながらも挑発を繰り返す志村は、後藤の組み手を嫌ってことごとく弾いていく。
焦らされて苛立つ後藤が一気に距離を詰めると、志村はカニ挟みで倒してエルボードロップ。
起き上がってきたところをアームドラッグ。更にロープに振るとリープフロッグ。
カウンターのヒップトスで放って行くが、ここは後藤が切り返して志村が投げられる。
後藤はフォールに行くもカウント1。立ち上がった志村は後藤の足を払いカバー。カウント1。
両者立ち上がったところで、志村はクルッと回って金ちゃんジャンプ……はフェイント。
レフェリーやエプロンの選手もこらえるが、後藤だけがピョンと飛んでしまった。

志村「ぷぷぷ、何やってるのかしら〜?」
後藤「(赤面しながら)な、何もやってない!」と猛烈な勢いで飛び掛っていく。

組みに来た腕を取って、志村はアームドラッグからアームロック。腕を極めたまま森永にスイッチ。
森永と志村はWブレーンバスターで後藤を放り投げる。冷静さを欠いた後藤の動きが悪い。
さらに後藤をロープに振ってAIはツープラトンのドロップキックを狙っていく。

「まったく…しょうがない子ねぇ」と、田中はエプロンを歩いていくと、
後藤がロープにリバウンドする瞬間に、その背中にミドルキックを入れる。
突然の不意打ちに背中を押さえてうずくまる後藤だが、スカされた森永と志村もマットに自爆。

田中「はい、交代」

リングインした田中はダウン状態の森永を起こすとボディスラムで叩き付ける。
そしてコーナーに登る……と見せかけて無造作にターンバックルに手をかける。
2つほど探すがローザミスティカは見当たらない様子だ。

田中「あらぁ? 意外と見つからないものねぇ」
森永「あ、こら、待て!」

慌てて止めに行く森永。田中は旋回式バックブリーカーの要領でツームストンに抱え挙げる。

田中「おばぁかさん♪」

森永の脳天がマットに突き刺さる。いきなり田中のフィニッシャーが飛び出した。
動けない森永。田中は容赦なくマウントポジションの体勢へ。

田中「さて、ローザミスティカを探す前に、うるさい羽虫を潰しておこうかしら」

そのまま森永の顔面へと拳を振り下ろしていくと、やがて何かを砕くような鈍い音が場内に響く。

志村「な、何の音なのかしら〜?」
沢城「……まずいわね」

鮮血に染まる森永の顔。口元からは夥しい量の出血が見える。

田中「あらぁ、歯が砕けちゃった」
森永「………」
田中「アナタ、ちゃんと乳酸菌取ってるぅ?」
森永「………ペッ!」

森永は砕かれた歯を田中の顔面へ吹きつけて目潰し。
一瞬、視界を奪われた田中の隙を付いて、TKシザースで体勢を引っ繰り返した。
隠し技の庭師の鋏(クルックヘッドシザース)で締め上げるがニアロープ。
各チーム交代でリング上は沢城と野川。

じっくりとした腕の取り合いから野川がバックに回った。
膝裏に蹴りを入れて沢城を座らせてスリーパーホールドで締め上げる。
野川の二の腕がガッチリと捕らえて離そうとしない。
にやりと笑みを浮かべたかと思うと、そのまま額に噛み付き攻撃!
鮮血に染まる沢城の顔。口元に真っ赤な血を滴らせながら野川はゆらゆらとスリーパーで絞める。

野川「いっちごジャムぅ〜、いっちごジャムぅ〜♪ くふふ…」

矢野「異常ですよ、彼女の攻めは…」
谷山「それだけこの試合に賭けてるってことだろうよ」

締め上げられながらも立ち上がった沢城はスタナーを一閃!
弾かれたように野川の体が吹っ飛ぶ。魔王軍&L/Rは後藤に交代。

Lip-trip(ジャンピングネックブリーカー)で沢城を倒すと、その勢いのまま前転してコーナーへ。
ターンバックルをひとつ探すが、まだまだローザミスティカは見つからない。
もうひとつ手にかけたところを、沢城が背後から首根っこを掴んでターンバックルに叩き付ける。
組み付いて沢城の投げっぱなしジャーマン。しかし後藤はバク宙で着地。
トトトっとロープに走って、横たわる沢城に低空ドロップキック! 沢城は場外へ。

代わって志村がリングへ。対する赤コーナーは野川が入る。
志村はハイスピードで駆け込んでコルバタ。しかし野川は堪えてリバースパワーボム!
ダウンした志村の足を捕まえて必殺のSAKURAマジック(アンクルロック)の体勢へ。

志村「いたたたたた〜っ!」

泣きながらカサカサとほふく前進でロープへ逃げる志村。
コーナーロープへと手を伸ばして、ようやくエスケープ。

志村「はぁはぁ…助かっ……あれ?」

うつ伏せになったまま動かない志村。

志村「あのー、ローザミスティカ見つけちゃったみたいですぅ」
森永「……は?」
志村「ロープに手を伸ばしたら、ここにあったみたいで…
   えと……おーっほっほっほ! 計算どーりっ!」
野川「ふざけた真似を!」

野川は胸を張る志村を掴まえてロープに振る。
調子に乗る志村はハンドスプリングからのバックハンドエルボーでカウンター。

志村「第一楽章 攻撃のワルツ! かしらっ!?」

更にディスコード(アナコンダバイス)で追撃するが、体格で勝る野川は立ち上がって裏投げ。
志村を背後から羽交い絞めにすると、リングインした田中がボディブローを打ち込む。
更にヴァルハラの舞(ナックルパート→顔面ニーリフト→水面蹴り→蒼魔刀)で追い討ち。
しかし最後の蒼魔刀は、思いのほか志村の座高が低く空を切ってしまった。

志村「け、計算どーり…」

フラフラで自陣に戻ると沢城に代わる。遂に真紅vs水銀燈の宿命の対決へ。
大いに湧く会場だが、田中はふいと視線を外すと後藤に代わってしまう。

田中「貴女とは後で遊んであげる、ふふ」

田中に強烈な視線を送る沢城に後藤がカチ上げラリアット。だが沢城は切り替えして脇固めへ。
前転で逃れようとする後藤だが、沢城は腕ひしぎ十字固め。立ち上がろうとすると三角締めへ移行する。
腕を固められた後藤は慌てずにジャックナイフに固めてカウント。沢城が1で返した。

後藤は沢城を引き起こしてデスバレードライバーです〜を狙って抱え上げる。
完全に持ち上げられた沢城だが、その体勢のままでヘッドロックで締め上げるとマットへ着地。
すんでのところで難を逃れた……と思った瞬間、後藤の殺人バックドロップが炸裂!
脳天からマットに突き刺さる沢城、慌てて森永がカットに入るも後藤は緑のささやき(グリーンミスト)
沢城にヒザを叩き込んでダブルアームの体勢。このままフィニッシュのG.G.F(FFF)を狙う。

今度は志村がカットに入ると、後藤は再び緑のささやき、対する志村はピチカートで応戦。
リング上が緑と黄色に包まれ視界が阻まれたと思った刹那、後藤の脳天に志村のバイオリンショット!
意識を飛ばした後藤に沢城のspicygirl(スパイシードロップ)の追い討ち。これで後藤が初の退場者に。

ダメージの大きい沢城に代わって森永。対するは野川が入る。
奇襲を仕掛けた森永はロケット・ガール(ジャンピング式回転エルボー)で飛び掛かる。
野川は冷静に空中で捌くとクリップラークロスフェイスへと引きずり込んだ。
締め上げられる森永だが腹ばいでロープへと近づいていく。沢城と志村は足踏みして観客に拍手を要求。
だが森永の手がロープへ届くかという距離まで来たところで、野川はSAKURAマジックへと移行する。
そのままマット中央へと引っ張ると、さらに強引に森永の足を捻り上げる。
沢城と志村がカットに入ろうとするが田中がブロック。森永は無念のタップアウト退場。

次いで志村vs野川。ちょこまかと動き回りながら野川の手から逃れる志村だが捕まってしまう。
そのままコーナーに引っ張り込まれ、野川は田中とスイッチ。意外にも野川と田中のタッグは良好。
まずは野川が対角線コーナーに振ってダッシュで後を追う。志村はモルタルでかわしてムーンサルトアタック。
しかしそこにいたのは野川ではなく田中。ムーンサルトで飛んでくる志村を捕らえてショルダーバスター。
田中は苦しむ志村など眼中にない様子でターンバックルを探すとローザミスティカを発見した。

矢野「これで各チームともに手にしたローザミスティカは1つずつ、退場者も1人ずつです!
   現在の戦力は両者互角、ここからが正念場ですよ!」
田中「まずはそこのおチビちゃんに退場してもらいましょうか」

余裕の笑みを浮かべながら、志村をフロントネックロックの体勢に捕らえる。

谷山「出るぞ、水銀党(変形DDT)だ!」
矢野「これが決まれば志村選手も後がないですよ」

ゆらゆらと首を掻っ切るアピールをする田中。沢城が飛び込んでWELCOME(葉隠れ)でカット。
そのままエプロンの野川の方へ走っていくと、久しぶりの口からバズーカが飛び出した!
沢城と野川が場外転落して、リング上にはダウンした田中が孤立した状態に。

志村「これが最終楽章かしら〜!」

WELCOMEのダメージから立ち上がった後藤の首に飛びついてのスイングDDTが完璧に極まる。
桑谷らとの特訓で習得した最終楽章 破壊のシンフォニー(ハリケーンスパイク)だ。
まさかの大金星に沸き立つ観客。だが田中はカウント1つで難なく跳ね返してしまう。

志村「そんな……」
田中「苦労の末、ようやく勝てたと思った矢先、すべての希望を打ち砕かれる……最高だわぁ。
   その悲哀に満ち満ちた顔をもっとよくお客様に見せてあげなくっちゃね、ふふふ」

後ろ髪を掴んで四方にアピールすると、コーナーに振ってVoice of heart(カーフブランディング)
ここまで粘りに粘った志村も3カウントを奪われて退場。一気に田中らに有利な展開となってきた。
田中が場外へと目を向けると、グロッキーの野川を引きずりながら沢城がリングに上がってくる。

沢城は「1対2、大いに結構だわ」と野川の体を田中の方へと放って投げる。
フラフラの野川を抱き寄せた田中は優しげな笑みを浮かべる。
瞬間、田中の水銀党がパートナーであるはずの野川を襲った!
不意を付かれて受け身を取りそこなった野川は完全にKO。場内も静まり返る。

沢城「どうして……」
田中「どうして? 私と貴女の一騎討ちに邪魔が入っちゃ困るじゃない」
沢城「……反吐が出るわね」
田中「あら、怖い顔。一体どうしたのかしらぁ?」
沢城「いいわ、貴女にアリスの座は譲れない」

沢城の言葉を合図に猛烈な打撃の打ち合いが始まった。ほとんどノーガードで殴りあう二人。
大振りのナックルを狙う沢城の一撃を避けると、田中はルミナス・ハーティエルアクション(一本背負い)
右腕を外さずにアームロックで絞り上げる田中。ギシギシと沢城の骨が軋む。

田中「細い腕ね。乳酸菌取ってるぅ?」

そのまま後方に反りかえると、沢城の腕から鈍い音が響いた。

真田「み、みゆきッ!」
谷山「な、何の躊躇いもなく腕を折っちまったぞ!」
矢野「これは私闘ではないんですよ、こんな横暴は許されません!」

田中「あらあら、人聞きが悪いわねぇ。ちょっと肩を外しただけよ」
沢城「…お、お気遣い傷み入るわ」
田中「どういたしまして」

片腕の使えない沢城に田中のナックルパート、顔面ニーリフト、水面蹴りが決まる。
蒼魔刀を狙ってロープに駆け込む田中。だが沢城はスックと立ち上がる。

田中「立ち上がったところで、その腕で何が出来るのかしらぁぁぁ!」

死角となる沢城の右から田中の拳が飛んできた。
だが、沢城は紙一重でかわすと、外されているはずの右肩を力任せに振り回す。
肩が抜けていることでロシアンフック気味の右が田中のアゴにヒット!

沢城「はぁ…はぁ…ちょっと失礼」

左腕で田中の頭を掴んで立たせると、再び大振りの右でショートレンジラリアット!

沢城「今ので、肩、入ったわね」
田中「舐めた真似を…ジャンクのくせに…」
真田(あの子…こんな無茶をする子じゃないのに…)

田中の体を担ぐと、沢城のspicygirlが直角に決まった。
さらにコーナーに田中を座らせると雪崩式フランケンシュタイナーの体勢に。

沢城「ねぇジュン、流石にちょっと疲れたわね…」
真田「みゆき…いえ、真紅…」
沢城「この試合が終わったら……紅茶が飲みたいわ」

そう言ってアリーナの天井を見上げると、沢城の雪崩式フランケンシュタイナー。

矢野「雪崩式の…いや、違います! これは…」
谷山「場外に向けての雪崩式フランケンシュタイナーだ!」

高角度で場外フロアへと落下した沢城と田中。アリーナ中から響く「Holy Shit!」の大歓声。
場外カウントが数えられる中、立ち上がった沢城がリングへと上がる。
フロアに横たわりピクリともしない田中を一瞥すると、ターンバックルに手を伸ばす。
右腕に高々と掲げられたローザミスティカ。これにてアリスゲームに終止符が打たれた。

○沢城みゆき・森永理科・志村由美(24分15秒 ローザミスティカ奪取)●田中理恵・野川さくら・後藤紗緒里

真田に肩を借りて客席に勝利をアピールする沢城。

沢城「ねぇ、ジュン、私はアリスになれたのかしら?」
真田「さぁね……だけど、いい試合だったわよ」

田中組はノーコメントで退場。

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