谷山「Wellcome to VOW!」
矢野「皆さんこんばんは、VOWへようこそ! 実況・解説は私“いたりやーの”矢野了平と」
谷山「マチのほっとステーション、谷山“スター”紀章! そして、今日は特別ゲストのお出ましだ!」
GM「う〜ふ〜ふ〜、ボクGM、よろしく〜」
矢野「VOWを取り仕切るGMが直々に実況席にお出でとは一体何事ですか!?」
GM「第2回ヤング黒うさ杯の出場選手枠を決めるに当たって、この目で若手の試合を見ておこうと思ってね」
谷山「現状ではAIの志村由美、本隊の小清水亜美、牛軍団の小林ゆうの参戦が決定しているな」
矢野「一度は出場が確定していた若手軍の鹿野優以は自ら出場権利を放棄し、再度の選考を訴えました」
GM「彼女のやる気は買いたいね。一つ二つは若手軍の枠を予定しているから決定戦でもやればいいんじゃないかな」
矢野「同じくジュニアクラスの選手を多数擁するL/Rからの出場も未定ですね」
GM「あそこは社長の鹿志村君が選考に戸惑っているようだね、まぁ同じく二枠ってとこかな」
谷山「復活のSOS団からは茅原実里の出場も切望されているようだが……」
矢野「これで7人から8人の枠が埋まってしまう計算になりますね。予選段階から激戦が予想されます。
   そんな中、今日は本隊から出場を志願している佐藤利奈が登場します!」
谷山「狙いは牛軍小林との一騎打ち、そして奪還ってとこだろうな。おっと噂をすればだ」

軽やかな『大魔法峠』のテーマに乗って佐藤利奈が入場。にこやかに観客に手を振るアピールも見せる。
対する赤コーナーから現れたのはプロシードαの生天目仁美。PPV以来の試合だが調子は良さそうだ。

矢野「偉大なる魔法使い、マギステル・マギの異名を取る佐藤選手ですが、今日の相手は一筋縄では行きません」
谷山「だが実はナバもキャリアは5年未満だ。既にヤング黒うさ枠に収まるタマじゃないがな。
   今日の試合をマッチメイクしたGMの前で言うのはナンだが、ミスマッチなんじゃないのか?」
矢野「……とのことですが、GMはどういう意図の下、この試合を組まれたのでしょう?」

GM「生天目くんも勝率で言うと若干伸び悩んでいるようだね。同朋の伊藤くんには先を行かれているようだし、
   確かにキャリア的にはまだまだ若手の域だが、こんなところで足踏みしている場合じゃないだろう。
   一方の佐藤くんは経験のなさが弱点だが、実を言うと今日の試合は彼女の直訴によるものなんだよ」
谷山「キャリアでは同等ながら格上の相手を踏み台にステップアップを狙ってるってとこか……」
矢野「さて、後がない生天目選手は、上を目指して挑んでくる佐藤選手を蹴散らせるのでしょうか!?」

シングルマッチ20分一本勝負
生天目仁美 vs 佐藤利奈


飄々とした表情の生天目は軽いローキックで牽制しながら距離を取る。
一方の佐藤は蹴り足を捌きながら近づきたいが、なかなかうまく行かないようだ。

矢野「やはりこの距離では打撃を得意とする生天目選手に分があるようですね」
GM「ふふ、それはどうだろうね」

派手なKOを狙った生天目の上段回し蹴りをブロックした佐藤は、そのまま足を掴んでグラウンドに引き込む。

矢野「佐藤選手は裏アキレス腱固めへ移行するも、生天目選手は匍匐前進でロープにエスケープ!」
谷山「意外と利奈の動きがいいな、流石は自ら志願しての登場だな」

立ち上がって足首の調子を確かめると、生天目は空手スタイルで再び攻め込む。
今度は一気に距離を詰めると左右の正拳突きから高く上がった蹴り足が襲い来る。
これを同じく防ごうとする佐藤だったが、ガード上から振り下ろす上段蹴りでダウン。
追い討ちには行かず、掌を上に余裕の手招きで佐藤が立ち上がるのを待つ。

GM「最近は打撃を得意とする選手も増えたが、ウチはあくまでプロレス団体なんだがねぇ……」

猪木アリ状態でじりじりと近づく佐藤。ローキックで離そうとする生天目。
下からの蟹挟みでダウンを奪った佐藤はアキレス腱固め。生天目は空いた一方の足で蹴りを入れて脱出。

生天目「意外とやるねぇ、しかしこいつはどうかな!?」

膝相撲で左右に振って腹部へのニーリフト。ガードが空いたところへ顔面への膝が飛んだ。
吹っ飛ぶ佐藤だが、生天目の足を捕まえて同体でダウン。身体を返してサイドポジションへ。
チキンウイングアームロック狙いは、生天目が強引なブリッジで脱出する。

矢野「5分経過。ここまで投げ技が全く出ませんね」
谷山「お、またナバが仕掛けていくぞ!」

ミドルキックの連打から低空のボディソバット。崩れたところへカカト落とし!
これを間一髪でかわした佐藤は背後に回って、生天目の身体を持ち上げるとマットへ。
バックマウントからがぶりに移行してフロントチョーク。生天目は水車落としで切り返す。
互いに立ち上がって睨み合うと場内からは大きな拍手が。

生天目「ちょっと油断してたな、ここからは本気で生かせてもらうぜっ!」
佐藤「そうなんですか〜? それじゃこちらも……ここからが本気よ」

そう言うなり低い姿勢のタックルに行く佐藤。重心を下げて押しつぶそうとする生天目。
佐藤はロシアンフック気味に大振りな打撃で肩口に一発入れて、飛びつき腕ひしぎ十字固め。
強引に生天目のジョイントを捻り上げると、自ら技を解いて距離を取る。

佐藤「打撃系など花拳繍腿! サブミッションこそ王者の技よ!!」

矢野「これまでの大人しいイメージとは一転しての強気な発言ですね」
谷山「隠し持っていたナイフ、いや、トカレフを抜いたってカンジだな」
GM「ふふ、いいねぇ彼女……」

意外な佐藤の地力に驚きを隠せない生天目だが、彼女もここまで激戦を潜り抜けてきたキャリアの持ち主。
引きの早いジャブの連打で佐藤を寄せ付けない。軽い打撃ながらも2発3発と喰らって佐藤の動きが止まる。
ここへ強力な左のミドルキック。キャッチした佐藤だが、さらに先を読んだ生天目はジャンピングハイキック。
相手の土俵で戦うかのようにハーフボストンクラブでギブアップを迫りつつ、上体を逸らして髪の毛を掴んだ。
佐藤は苦しみながらも、その指を掴んでプリンセス指4の字固め。
予想だにしない反逆に慌てた生天目の腕を取って、今度はプリンセス脇固め!

まるで魔法のようにスムースなサブミッションの流れに生天目の顔にも焦りが見え始める。
エスケープするとリング上で対峙する生天目と佐藤。呼吸を整えた生天目はゆっくりと天地上下の構え。

谷山「見ろ、あのドッシリとした構えで佐藤を迎え撃つ覚悟だ」
矢野「立って生天目、寝て佐藤、と言った展開になってきましたね」

生天目「来い、一撃で沈めてやる」

佐藤は大きく深呼吸。そして何やら文言を唱えながら正中線を守る構えを取る。

佐藤「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……!」

瞬動の歩方で一気に近づくと、生天目の鳩尾を狙う一本貫手突きの体勢に。
生天目のカウンターの剛拳が佐藤の顔面を襲うが、佐藤は頬を裂かれながら紙一重で避ける。

佐藤「魔法の射手、光の一矢!」

危険な貫手が鳩尾に突き刺さる。肺の空気を無理やり吐き出させられた生天目が片膝をつくよりも早く佐藤は背後へ。
必殺のプリンセス卍固めがガッチリと決まる。だが生天目はギブアップしない。

佐藤の身体を背中に抱えたまま、一歩また一歩とロープへ歩みを進めるも、もう少しというところで膝が落ちる。
それでも堪える生天目、佐藤はチョークスリーパーに移行して容赦なく締め上げる。
どうしてもギブアップしようとしない生天目を危険と判断したレフェリーが試合をストップした。

●生天目仁美(18分54秒 プリンセスチョークスリーパー)○佐藤利奈

生天目「なんだよ、何であそこで止めるんだよ!」

納得できない生天目はレフェリーに抗議するが受け入れられない。
荒れる生天目を制したのは実況席に座っていたGMだった。

GM「う〜ふ〜ふ〜、残念ながら君の負けだよ。実力的には確かに勝っていたのに油断があったようだね〜。
   君はサブミッションの専門家だと思っていたようだが、何でも佐藤くんには空手の経験もあるそうだよ。
   さぁ、負け犬には用はない。今すぐリングから降りたまえ!」
生天目「く、ちくしょう!」

鉄階段を蹴り飛ばして生天目は不機嫌な顔で退場。リング上には佐藤利奈が一人で立ち尽くしている。
マイクを握ってリングに上がるGM。佐藤の方にマイクを向けながら問いかけた。

GM「さて、佐藤利奈くん。GMに直訴しての試合で見事に勝利を収めたわけだが、何か言いたいことはあるかな?」
佐藤「………」

ゆっくりとマイクを受け取る佐藤。当然ながらヤング黒うさ杯への出場アピールに期待する観客。
だが、佐藤は静かな口調で一言だけコメント。すなわち……

佐藤「多くは語りません、レスラーは肉体言語で語るのみ」
GM「うふふ、その性格じゃ損するよ。まぁいいだろう、今日は大盤振る舞いだ。
   本隊所属・佐藤利奈、君へ第2回ヤング黒うさ杯への出場権を与えよう」

矢野「おっと、残る出場5枠は若手軍、L/R、SOS団で争うものと思われていたのですが、
   意外にも小清水亜美に続いて、本隊から2人目の出場が決定しました!」
谷山「まぁVOWは言ったもん勝ち、行動に訴えたものが勝ちって面もあるからな。
   ボヤボヤしてたら残りの4つの枠だって他軍団に取られちまうかも知れないぜ!」

佐藤「ゆうタン、私が牛神の呪いから必ず目を覚まさせてみせる!」

(番組終了)

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