谷山『Welcome to VOW!』
矢野『皆さんこんばんは、VOWへようこそ!実況・解説は私、“いたりやーの”こと矢野了平と』
谷山『谷山“スター”紀章の二人でお送りするゼ!』
矢野『さあ、谷山さん!今夜ついにヤング黒うさ杯出場者、最後の一人が決定します!』
谷山『おお!ようやくだなぁ!』
矢野『最後の一人は若手軍とL/Rによる敗者復活戦で決定します!』
谷山『L/Rは井ノ上奈々、若手軍は……誰だ?』
矢野『それはこれから明らかになります!さ、選手の入場です!』

『四つ葉物語』が流れて井ノ上奈々入場、セコンドには宮崎羽衣。リングインすると、真剣な表情でコーナーに控える。
変わって聞こえてきたのは『切情! 佰火繚乱』!入場ランプに姿を現したのは鹿野優以!相沢舞を伴って入場、リングイン。

井ノ「予想はしてたけど、やっぱりあんたか」
鹿野「お手柔らかに…って言っても無駄だよね。あたしもそんなつもりないし」
井ノ「あんたの手の内はゆっことの試合で見させてもらった。残念だけど、対クローバー二連敗確定だね」
鹿野「そりゃどうかな…?」

至近距離で睨み合う両者。そこへ能天気な声が響く。

宮崎「ゆいちゃ〜ん!がんばって〜!」
井ノ「…ってコラー!宮崎ー!そこはあたしを応援するところだろうがぁ!!」
宮崎「えー?でもゆいちゃん友達だし〜」
井ノ「あたしは!?あたしは違うの!?あたしはあんたの仲間でしょうが!」
宮崎「そうだけどぉ……なっさん絡みづらいし〜」
井ノ「あぁん!?今なんつった?この口か!?ふざけたこと抜かしたのはこの口か!?」
宮崎「いひゃい!いひゃいよなっひゃん!」

エプロンに立っている宮崎の頬をつねり上げる井ノ上。鹿野はその様子をポカーンと見ている。

鹿野「あのー…そろそろ始めたいんですけど…」
井ノ「お、おーし、わかった!いざ、尋常に…」
鹿野・井ノ上「「勝負!!」」

【ヤング黒うさ杯出場者決定戦 30分一本勝負】
  井ノ上奈々 vs 鹿野優以

両者ともに試合開始と同時にコーナーから飛び出し、リング中央でエルボーの相撃ち。
どちらも一歩後退して睨み合うと、エルボー合戦を開始。ゴツゴツという鈍い音がリングサイドまで響く。
打ち勝ったのはパンチ力で勝る鹿野。パンチ、エルボー、チョップを上手く使い分けて井ノ上を攻め込む。
それに対して井ノ上はキックと足殺しで対抗。鋭いローキックを基点にして、鹿野の突進を止める。

15分過ぎ、井ノ上の『クローバーホールド(テキサスクローバーホールド)』で鹿野はギブアップ寸前まで追い込まれる。
しかし、根性でサードロープに辿り着きロープブレイク。
井ノ上は技を解き鹿野を引き起こすが、鹿野はその手を振り払って『竜吠大砲拳(踏み込み式ワンインチパンチ)』!
井ノ上はコーナー近くまで吹っ飛ばされる。
鹿野は井ノ上を起こし、対角線のコーナーへ振って『Bカップスプラッシュ(コーナースプラッシュ)』で押し潰す。
さらに、倒れ掛かってきた井ノ上を捕まえて『人生バックドロップ』で後頭部からマットに投げ落とすと、
首を掻っ切るポーズから『カノドリラー(ファイヤーサンダー)』でマットに突き刺す!
すかさずカバーに移るがカウントは2.9!
鹿野はすぐに立ち上がり、右腕をグルグルと振り回してフィニッシュを予告、
立ち上がった井ノ上に『黒龍モーニングデストロイヤー(ロシアンフック)』を打ち込む!
しかし、井ノ上はそれをスルリとかわしてガットショット!

208 名前:名無し@イエロー[sage] 投稿日:2007/04/02(月) 04:35:46 ID:Vy7IP1AZ0
井ノ「あんたの手の内は見せてもらったって言っただろうが!人の話を聞かないヤツには…制裁!!」

井ノ上の『制裁!(ローキック)』が鹿野の膝を打ち抜く!ガクリと体勢を崩す鹿野。
そこを抱え上げて『WISH(ツームストンパイルドライバー)』でマットに打ちつける!
井ノ上は鹿野の上体を起こし、背中に強烈なサッカーボールキックを叩き込んでロープへダッシュ、
勢いをつけて正面から鹿野の胸にPK式『制裁!』をブチ込んでフォール!しかしカウントは2.9!

井ノ「くそっ!けど次で終わり!……万物尽く斬り刻めっ!!」

井ノ上は再度鹿野の上体を起こしてロープへダッシュ!

井ノ「地獄蝶々っっっ!!」

鹿野の顔面目掛けて低空の『地獄蝶々(稲妻レッグラリアット)』!
しかし鹿野は上体を倒して回避、足の痛みをこらえて立ち上がる。
井ノ上もすぐに立ち上がり、返す刀で『ACCESS(クローズライン)』を打ち込むが、
鹿野はカウンターで『飛龍一閃剣(ゴールデンレフト )』!
さらに前屈みになった井ノ上の顔面を『昇龍裂天衝(アッパーブロウ)』でカチ上げる!
井ノ上はグラリと後方にダウン。鹿野は井ノ上を引き起こし、リバーススープレックスの要領で持ち上げる。
井ノ上の足をクロスさせ、両腕を自分の腹の前でクラッチ、そして開脚ジャンプ!

鹿野「っだあああああっっっ!!」

『ももこ逆上リミットブレイク(ビーチブレイク)』が完璧に決まって3カウント!
鹿野優以がヤング黒うさ杯・最後の一枠に滑り込んだ。

●井ノ上奈々(20分00秒 ももこ逆上リミットブレイク→体固め)鹿野優以○


209 名前:名無し@イエロー[sage] 投稿日:2007/04/02(月) 04:40:56 ID:goxkA6gz0
矢野『決まりました!ヤング黒うさ杯出場者・最後の一人は、鹿野優以選手です!』
谷山『いやー、どっちが勝ってもおかしくなかった!二人に盛大な拍手を送ってやってくれ!』

リング上では両者大の字になってダウン。宮崎と相沢がリングに上がって介抱する。

井ノ「…………」
宮崎「なっさん、大丈夫?……なっさん?」
井ノ「……ごめん、羽衣。あたし、一人で戻るわ」

井ノ上は宮崎を置き去りにして退場。宮崎は井ノ上を呆然と見送る。鹿野は相沢の肩を借りて立ち上がる。
そこへ『ドラえもんのうた』がヒット!入場ランプに例のドアが突然現れ、その向こうから大山のぶよGMが登場。

大山『こんばんわ、ぼくGMです。
   さて、鹿野優以ちゃん。ヤン黒杯出場決定おめでとう。本戦での活躍を期待しているよ。
   それでは今ここで、ヤング黒うさ杯一回戦の組み合わせを発表するよ!』

GMの言葉に、観客は大歓声で応える。GMは機嫌よく笑顔で頷く。

大山『一回戦第一試合、志村由美vs板東愛!
   第二試合、小林ゆうvs茅原実里!
   第三試合、小清水亜美vs宮崎羽衣!
   第四試合、佐藤利奈vs鹿野優以!
   優勝するためには三試合を勝ち抜かなければならない過酷な1dayトーナメント!
   優勝者には前回同様、希望の選手との対戦権が与えられるよ!
   今年最初のPPV、ヤング黒うさ杯を楽しみに待っててね〜!』

大歓声の中、GMは番組を閉めようとする。そこへ……

??『ちょっと待ったぁ!!』

何者かの声が響く。何事かとざわめく場内。と、タイタントロンに突然人影が映し出される。
しかし、その人物がライトを背負っているため、逆光でシルエットしか判らない。

??『ヤン黒杯出場者の変更をお知らせします!若手軍・板東愛に代わって……』

照明が切り替わり、その人物の姿が明らかになる。

??『私、天誅戦士ウマ仮面が出場します!』

細身の身体を、黒光りする皮製のコスチューム(丈が極端に短いノースリーブ&ローライズのホットパンツ)に包み、
顔には仮面舞踏会を思わせるマスク。SMを連想させる衝撃的なその姿に、観客は絶句。
リング上に残っていた鹿野・相沢・宮崎もポカーンと口を開けて見ている。

〈注:()内は心の声〉

相沢(へ、変態さんだ…)
鹿野(うーわー、なんだあれ。まあ、春だしなぁ…)
宮崎(すごーい、ウマ仮面のコスプレイヤーさんだー)
相沢「…はっ!?だ、だれなの?なんでばんちゃんの代わりだなんて言ってるの?」
鹿野「……つか、あの声……。あれってまさか…!?」
宮崎「すごいねー、ゆいちゃん!ウマ仮面だよ!よくあんなカッコできるよね!」
鹿野「あー、そーだね…じゃなくてっ!羽衣ちゃん、あれってあ…」
ウマ『違いますっ!断じてっ!』

鹿野の言葉を遮るウマ仮面。マスクの奥の瞳は狂気さえ感じさせる真剣さだ。
事態が把握できず、観客はザワザワと騒ぎ始める。それを制するように、GMがウマ仮面に話しかける。

大山『きみ、ウマ仮面といったね。板東愛ちゃんのヤン黒杯出場はもう決定していることだよ。
   きみの勝手な主張など認められない。今すぐこんな馬鹿なことはやめて、近くにいるセキュリティに自首しなさい。
   今なら大目に見てあげるよ』
ウマ『勝手な主張などではありません。これを見てください』

ウマ仮面がそう言うと、タイタントロンに一枚の紙が大きく映し出される。
そこに書いてある内容は……

大山『なになに……板東愛と試合を行い、勝利することが出来れば、
   天誅戦士ウマ仮面のヤング黒うさ杯出場を認めます。GM・野沢雅子……だって!?』

観客は驚愕。場内は驚きの声とウマ仮面へのブーイングに包まれる。画面は再びウマ仮面に切り替わる。

大山『それが本物だという証拠はあるのかい?』
ウマ『このサインを見て頂ければ充分だと思いますが。なんなら、筆跡鑑定にかけてもらっても構いませんよ』
大山『ううむ……仮にその署名が本物だとしよう。そうすると、きみは愛ちゃんと試合をして勝ったというんだね?』
ウマ『ええ。もちろん』

カメラがウマ仮面からスライドする。次に映ったのはリング。そして、その上に倒れている板東愛の姿だった!

鹿野「ばんばん!?」
相沢「ばんちゃん!」
ウマ『ご覧の通りです。といっても信じてはもらえないでしょうから、これから試合の映像をご覧に入れます』

画面が再び切り替わる。映っているのは板東とウマ仮面。試合の終盤のようだ。

【ヤン黒杯代表入れ替え戦 時間無制限一本勝負】
  板東愛 vs 天誅戦士ウマ仮面

すでにふらふらの板東にトドメを刺すべく、ウマ仮面はロープへ飛ぶ。しかし板東はカウンターのスクープサーモン!
ウマ仮面をマットに強烈に叩きつける。ダウンしているウマ仮面の頭を両手で掴むと、力任せに無理やり立ち上がらせる。
そして『しぼりたて生!』改め『しぼりたて熊!(合掌落とし)』で再びマットに叩きつける!
すかさず片エビ固めで押さえ込むがカウントは2。
板東はすぐに立ち上がり、「かそくそーちっ!」と叫んでロープへダッシュ。
ロープ間の往復を繰り返して走るスピードを上げ、ヨロヨロと立ち上がったウマ仮面に猛スピードのラリアット!
しかしウマ仮面はスッと身を屈めてそれをかわす。板東は勢いを止められず、そのまま胸からロープに衝突。跳ね返される。
かろうじて後ろに倒れることなく踏み止まるが、その姿は隙だらけ。

ウマ「……如意天穿脚っ!」

ウマ仮面の鋭いトラースキックが板東の鳩尾に突き刺さる!
板東は膝から崩れ落ちてダウン。レフェリーは板東の失神を確認、試合を止める。

●板東愛(タイム不明 K.O)天誅戦士ウマ仮面○

タイタントロンには、再びウマ仮面の姿が映し出される。
場内は騒然。鹿野・相沢は呆然とタイタントロンを見つめ、宮崎はウマ仮面の強さに感心したように拍手をしている。

ウマ『納得していただけましたか?』

鹿野はウマ仮面の声にハッと我に返るとスタッフにマイクを要求。タイタントロンに映るウマ仮面に向き直る。

213 名前:名無し@イエロー[sage] 投稿日:2007/04/02(月) 04:52:21 ID:Vy7IP1AZ0
鹿野『なんだよ……なんでだよ!なんであんなことするの!?あんなことしなくたって、あんたなら…!』
ウマ『人違いをしているようですね。私は天誅戦士ウマ仮面。それ以外の何者でもありません』
鹿野『っ…!』
大山『……よろしい』

沈黙を破って、GMが口を開いた。

大山『きみのヤング黒うさ杯出場を認めよう』

GMの言葉に、客席からはブーイングの嵐。GMはそれを聞き流してマイクを続ける。

大山『いま確認が取れた。さっきの署名は間違いなく野沢GMのものだよ。よって、あの紙に書かれていた事は有効。
   ヤン黒杯一回戦第一試合は、志村由美vs天誅戦士ウマ仮面に変更だ』

先程よりも酷いブーイングがGMに向けられる。GMは『まあまあ』というジェスチャーで観客を静める。

大山『本音を言えば、ぼくだって心苦しい。ぼくの権限で無効にしたっていいんだ。
   だけどねぇ…きみたちだって、より強い者同士の戦いを見たいでしょ?』

GMの問い掛けに、観客は戸惑いながらも拍手を返す。GMは神妙な顔をして頷く。

大山『愛ちゃんには申し訳ないけれど、これで決定だ』

GMはハッキリと言い切り、例のドアの向こうに消える。
ウマ仮面もカメラに背向け、どこかへ立ち去ろうとする。それを鹿野が呼び止める。

鹿野『待った!』
ウマ『まだなにか?』
鹿野『……あんたはあたしがブッ飛ばす!だから、必ず決勝まで上がって来い!』
ウマ『その言葉、そっくりそのままお返しします。……頑張りましょう、お互いに』

その言葉を最後に、映像が途切れる。鹿野は真っ暗なタイタントロンを睨み続けている。

矢野『……た、大変なことになりました!ヤング黒うさ杯最後の出場者は鹿野優以選手に決定!
   しかし、すでに出場が決定していた板東愛選手は、野沢雅子GMが使わした謎の覆面レスラー、
   天誅戦士ウマ仮面に出場権を強奪されてしまいました!』
谷山『いったい何者なんだ、アイツは!?エロいコスのくせにえらい貧乳だったが…。
   いや、アレはアレで有りなのか?逆方向のど真ん中ってやつなのか!?』
矢野『大山のぶよGMもウマ仮面の出場を容認!これにより、ヤング黒うさ杯出場者の最終決定がなされました!』
谷山『この続きが見たいヤツぁチケットを買え!会場に来れないヤツはPPVを買え!』
矢野『それではお時間です。みなさんさようなら!』

【場面転換/SOS団部室】
テレビ中継を見ていた、松岡・後藤・茅原。

後藤「あーあ…」
松岡「なにをやってるんだ、アイツは…」
茅原「……バカ」

【場面転換/アーツジム・AI練習場】
同じく中継を見ていたAIの面々。

パク「なんだありゃ」
釘宮「あんな格好して恥ずかしくないのかな?」
沢城「……面倒なことになったのだわ」
桑谷「なにを言ってやがるですぅ!あんなふざけたヤツ、一捻りですぅ!」
チワ「お前が戦うわけじゃないだろー?」
森永「そーだよ姉さん!志村、気をしっかり持つんだぞ?」
真田「…?由美ちゃん?」
志村「…………」
小林「……気絶しとるぞ」

【場面転換/某所・ロッカールーム】
着替えを終えたウマ仮面──平野綾が、コスチュームを片手に立ち尽くしている。
突然コスチュームを床に叩きつけると、ガツン!とロッカーを殴る。

平野「……大山のぶよ……!!」

【場面転換/VOWアリーナ・GMルーム】
例のドアを通って戻って来た大山。しかし、そこには先客がいた。

大山「きみの部屋はここじゃないよ。早く出て行ってもらえないかな?」
野沢「……やってくれたねぇ」
大山「なに、ちょっとしたお返しさ」
野沢「これであたしは悪者、あんたの株を急上昇か。悪知恵だけはよく働くようだね」
大山「手出し無用だよ。そういう約束のはずだよね?」
野沢「わかってるよ。今回は黙って泥を被ろうじゃないか。トーナメントがおもしろくなったことだけは確かだからね」
大山「よろしい。それじゃ退室願おうか」

野沢はすんなりと部屋を出て行く。大山はソファに座り、昨日の事を思い出す。

【回想シーン/前日・夜】
ヤン黒杯・L/R代表決定戦を見届けて戻ってきた大山は、まず青二ジムへ電話をかけた。
電話に出たのは鹿野優以。目的の人物が電話口に現れたことに、内心でほくそ笑む。
手早く用件を伝える。明日、井ノ上奈々とヤン黒杯最後の一枠を争って試合をしてもらう、と。
電話を切ると、大山は再び受話器を手に取る。次にかけたのは平野綾の携帯。
長い呼び出し音の後、平野が不機嫌そうな声で電話に出た。やはり手早く用件を伝える。
要約すると、『今すぐここへ来い』。
平野は猛抗議をするが、そんなものは相手にしない。GM命令だ、と付け加えて電話を切る。
それから数十分後──。
バタバタという荒い足音とともに現れ、バンッ!と乱暴にドアを開けた訪問者を、大山は笑顔で歓迎した。

大山「やあ、待っていたよ」
平野「いったいなんの用なの!?さっさと済ませてちょうだい!」
大山「簡単なことさ。これをどうぞ」

大山は紙を一枚差し出す。平野はそれを奪うようにして手に取り、サッと目を通す。

平野「……なんなのこれは!?」
大山「見ての通り。きみの出番だよ、ウマ仮面」
平野「あんたに呼ばれた時点でウマ仮面のことだろうとは思ってたわ。でも、こんなやり方…!」
大山「おやおや、ハルヒギミックの時には好き勝手やってた人が、ずいぶん大人になったもんだねぇ。
   そういえばきみさ、勝手にIC王座への挑戦を表明したよね?」

大山はPCのマウスを操作する。すると、スピーカーから聞き覚えのある声が流れてきた。

平野『……いいわよ。やってやろうじゃない!マスクマンだかマシュマロだかなんだか知らないけどやってやるわよ!』

それはまさしく大山と平野が交わした密約の証拠だった。
平野はギロリと大山を睨み付ける。大山は涼しい顔でそれをやり過ごす。

大山「聞いての通り、言質は取ってあるんだ。勝手なことされちゃ困るね。
   言っただろう?チャンスをあげるかどうかは、ウマ仮面としての君の努力次第だ、てさ」
平野「……」
大山「悪い話じゃないと思うんだよねぇ。ヤン黒杯で優勝すれば、一足飛びでどの王座にでも挑戦できる。
   優勝できなかったとしても、文字通りダークホースとしてトーナメントをおもしろくしてくれれば、
   約束通りチャンスをあげてもいい。……どうだい?」
平野「……まだ、納得いかないわ」
大山「なにがかな?」
平野「このサイン、大丈夫なの?」

平野は野沢雅子のサインを指差す。大山はそれを見てニヤリと得意そうに笑う。

大山「なめてもらっちゃ困るねぇ。ぼくの秘密道具にかかれば、筆跡の完璧なコピーなんて簡単さ」
平野「……あんた、タヌキの皮を被った悪魔ね」
大山「ネコだよ。さ、話は終わりだ。場所と時間、事の段取りは別紙に書いてある。
   台詞なんかも用意してあるけど、きみならアドリブでもいけるよね。
   板東愛ちゃんにも通達済みだから。もちろん、野沢雅子のサイン入りでね」
平野「……いつかあんたをぶん殴ってやるわ……!」
大山「ぐふふふぅ…楽しみにしているよ」

平野は来た時とは対照的に、静かに部屋を去っていった。
【回想シーン終了】

大山は突然笑い出す。くつくつと、声を押し殺して笑う。思い出し笑いだ。

大山「いやぁ、愉快だ。こうも思い通りにゆくとはね。さぁ、ヤン黒杯の準備を進めないとねぇ……」

【終】

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